荒馬と女

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荒馬と女

  手綱を力任せに引く、鼻息荒くようやく馬足を止めた。まるでムスタングだ、下馬するとグローブした手が痛かった。雌馬は手が掛かると吐き捨てるように言った。つかぬ間、馬が暴れ出した。慌てながら投げ縄を手に近づいた後ろ脚で立ち前脚をばたつかせた。焦りながらも慣れた手つきで縄輪をシュルシュルと回し馬の首に投げた縄は掠っただけで外れた。若い時は一発で決めたんだがな、少し足の踏み込みが遅れたようだ。危険を顧みず歩幅を狭めた、再びいきり立った前脚をバタつかせたこれは馬の牽制だ。少しあぶねえかなと心持少しビビった、二発目をシュルっと一回廻し投げた、ビシッと手応えを感じた、その縄を走り回りながら胴体に絡めていくのだ。自分でも何故か力以上のものを出しているようだ。汗と土埃で馬場は荒れた、ようやく観念したのか鼻息を鳴らし落ち着いてきた。男の疲れも激しかった、柵の上段に跨りそれを見ていた女がいた。男の息も荒い、肩で息をしながら満足気に女に近ずく、女が言った「ファンタステック」と呼びかけながら指で招いていた。女は金髪で透けるような白い肌だ。柵から飛び降り少し腰が揺れるモンローウオークしながら男と絡み深いキスをした。男の見せ場は闘牛士が動じず牛を捌く血を感じる場面であるようだ。男のロマンの影には美女との接点を仄めかすものが必要だ。男と女は肩を寄せ夜霧の中へ消えていった。それを追うように山並みが闇に沈んでいった。