2022-01-01から1年間の記事一覧

漁場に重なる声は大きかった。憲一がまだ中学生の頃だ、自慢の父は褐色の肌に鉢巻をし大漁旗を上げて帰港するのが常だった。東北日本海に面した漁場である、その日は待てど父の漁船が見えない。憲一は笑い声が大きい父の顔を来る日も来る日も港に待つが帰ら…

幸せ

耳元に聞こえる微かな音色はジャズだ、小説を書く時に筆体はアドリブになる思考と重なって協和音に置き換えられる。書くことに於いて精神は疾風になり重ね書きが始まるどうであったかああであったか文章は進んでいく、そうだあの時はこうだった、と独り言を…

グローバル化されてしまった世界 自然との共鳴は可能か

2019年末にパンデミックと言う姿なき無言の威圧が限りなく世界を席巻するとを誰が疑っただろうか。だがウイルスは忍び寄っていた事は確かなる事実だ、その足音は心なしかざわつきを表していた。2004年鳥インフルエンザが人体に影響を及ぼすようにな…

赤い褌

隅田川の土手より見つめる太郎の姿あった。そこには赤い褌を締め肩に筋肉の塊がある赤銅色に染まった50歳がらみの男がいた。足のふくらはぎの筋肉は二つの丘陵となりくっきり割れ浮かび上がっている。土手にある艀(はしけ)迄歩み寄ると一気に体を平行に…

時めかざるを得ない人生の一ページ

少女の名は杏沙と言った。日本人である、そうバイクを担ぐようにして貨客船に乗船して来た。長い脚は甲板とデッキの軋轢を感じた。バイクの駐車場所は船底だ、そのラインに沿ってその場所に止めベルトで押さえた。再びデッキに戻り船舶が出ようとしている桟…