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海辺の風は何時ものように心地よく頬をなぜていく、過ぎ去りし日々が波のように心をざわつかす、あの時のように携帯のコールが鳴って欲しい、あの時のように弾んだ声を聞かせて欲しい、そしてあの時のように話したい、話したいのだが。白い砂浜を素足で歩いていた、この情景の中に埋没するかのように涙が溢れて来る、どのくらい歩いたのだろう僅かな距離だがそう感じる、彼女を待つかのように白いオープンスポーツカーが彼女を待ちわびていた。パンプスに履き替えペタルを踏み込んだエキゾーストの音が後方に流れていった。

彼女と友達の彼女はドライブ中のすれ違いだった、平原を歩く彼女との目が合った時だ、確かに吸い込まれるような強い印象が残った。直ぐシフトダウンしトーアンドシールをしガスペダル少し踏み逆ハン気味にUターンした。彼女はもともとモータリゼーションを楽しんでいる人だ、バイクも好きでオフとロードの二台を所持している。二回のUターンで彼女の側にタイヤを軋ませて止まったのだ、「散歩」と声を掛ける「うん 少し向こうのカフェに行くとこ」あどけない声が戻ってきた。「よし 乗って喉が渇いたから一緒に行こう」なぜか全く躊躇せず「車大好きよ」軽やかな声とともに助手席側吸い込まれるようだった。

取り留めのないオシャレの話から始まりトラベルの方に繋がっり、次回はツーリングの話で纏まった。お互いにバックグラウンドの話は全くしなかった、意味をなさないようだそのような話は。

二人のタンデムしたバイクが姿を見せたのは一カ月ほどしたからだ。彼女のライデングスタイルは膝までの乗馬ブーツ、黒の乗馬パンツ、革ジャン、首にはスカーフさすが姉御。タンデムする彼女も赤いブーツ、ジーンズ、パーカーに黒のジャンパー、黒のヘルメット、双方お見事。アクセルを搾りロードへと入った、いきなり風を切ってスピードを出した、キャーと言いながらしがみつく彼女、タンデムを気に入ったようだ。「楽しいい」と聞くと「今が最高この気持ちが続いて欲しいな」インカム越しにうねる、「そう私もなんだこのまま続いて欲しいよ」ぽつりと言った。

山間から下りに入るがスピードを落とさない、「しっかり抱き着いていてね」先方の岩がみるみる近づく、突如 花火のように咲、散った。

気が付くとベットにいた、ほとんど動けない体になっていた。が、あの時の彼女の声が耳に再生された「今が最高この気持ちが続いて欲しいな」とだ。側に看護師が立っていた「彼女は」と聞くと「風となりました」と言った、嗚咽の涙がとめどとなく溢れた「何故置いていくの」。